第一章 キャッシュフロー経営とはどういうものか
第二節 会社の会計構造を知る
キャッシュフロー経営を行う前に会社会計の構造を先ずよく知っておかなければなりません。
会社は売上を上げ利益を出し、その中から給与や家賃、電気代などを負担して生存するものです。資本主義経済の中ではその利益の極大化を目指し、各人がしのぎを削ることになるのですが、他人との、しのぎの削りあいではなく、そうではないところで会社を駄目にしないようにするために、最初は1年生の問題です。
会社は売上がないと存続できない。なんともはや当たり前のくだりでスタートしましたが
次の表を見てください。
売上高が500万円、売上原価が350万円、ここで言う原価とは売り上げるために仕入れてきた商品と考えてもらえればお解かりいただけますでしょうか。
八百屋さんはりんごを市場から仕入れてきて消費者に販売します。この仕入れが原価です。ここに売上総利益というのが150万円あります。
損益計算 |
売上高 |
500 |
売上原価 |
350 |
売上総利益 |
150 |
販売費及び
一般管理費 |
100 |
営業利益 |
50 |
一般的に物品販売などでは売った額から仕入れた額を引いたものを売上総利益といいます。これは、商品にのせた裸の利益です。
これで何も経費がかからなければ総利益分が儲けです。
しかし実際は人件費や家賃、水道代、電気代など一般管理費といわれる経費がかかります。
ここでは100万円の経費がかかったことになっています。売上総利益からこの一般管理費を差し引いたのが営業利益といいます。これは、会社が営業で稼いだ利益という意味です。細かくすればこの後また細分化されるのですが今は営業利益だけで十分です。
表に寄れば営業利益は50万円となっており、この段階でみるならば50万円の現金があることになります。ここで折角現金があまっているのだから車を買おうということになったとします。価格は50万円、そうすると、利益として確保してあった50万円の現金は車屋さんに支払われ丁度うまく使いきったことになります。一般的に考えればこれで損得無しのトントンという判断がされます。
しかし、簿記会計の世界ではこれが許されません。車や建物、機械装置、器具備品などある一定の金額(一般的には10万円以上と言われておりますが税法の影響で変わる場合もありますので詳しくは税務署若しくは担当の税理士さんにお尋ねください)以上はそれを一括で経費に落とすことを認めていません。
つまり、車であればそれは何年かに亘って価値が減るものとして経理しなければならないとしているのです。それらを総称して資産と呼んでいます。
つまり、現金は確かに車両の購入によりなくなってはいるのですが会計の視点からは経費となっておらず、減価償却資産としてその後の年度において費用化しなければいけません。
この費用化には毎年一定で価値が減るものとして考える定額法というやり方と最初のうちに多くの価値が減るという考え方の定率法というのがあります。加えて、生産高比例法や級数法などといった資産の特徴にあった償却の仕方がありますが、ここでは計算の簡便な定額法について見てみます。
定額法では、取得原価を償却年数で割って償却額を算出します。この設例の場合でみると50万円の購入で耐用年数5年とした場合、、50÷5=10万円となります。この10万円が実際の支払にかかわらず会計上の費用として認められるものです。この例で見ますと下の表がそれです。
損益計算 |
売上高 |
500 |
売上原価 |
350 |
売上総利益 |
150 |
販売費及び
一般管理費 |
110 |
営業利益 |
40 |
上段は一般管理費が100万円となっていますが下段は110万円となっているのがわかります。つまり、減価償却分が加算されています。50万円の支出をしたのですがそれを経費として認められるのは10万円だけだということになります。従って、現金はまるっきり無いのですが利益が40万円出ていることになるのです。
これはこれでそうかといった内容ですが、ここに後述する税金が入ってきますのでこれを簡単に受け入れられなくなるのです。
これが「勘定あって銭足らずの」一番目の要因です。これは、簡単なことなのですが意外と中小企業の経営者の方に知られていません。
ある中小企業の社長さんです。私のところへお見えになったのは創業5年目のことでした。この社長さんは、バイタリティーにあふれ人間的魅力も持ち合わせ正にベンチャー企業の経営者といった感じの人でした。
会社の業績も年々成長し、私のところへ来た時には、昨対で130%の伸びをしていた頃でした(創業当初は昨対で150%~200%の伸びでした)。この会社は設備投資型の業種でした。つまり、会社の成長とともに多くの設備投資を余儀なくされていたわけです。
社長曰く「会社は成長し儲かっているのにお金の心配(資金繰り)は年々その額が大きくなってきて不安で眠れない日もあるとのことでした。
早速、内容を確認したところ、設備投資は当然のごとく金融機関からの借入れで行われていたのですが、費用化される減価償却との整合性を全く無視して、現金に余裕があるといっては金利の支払がもったいないということで繰上げ償還をしていたのでした。
つまり、1000万円の設備投資をした場合、先ほどの流れで見ると、1000万円÷10年(償却年数が10年とした場合)=100万円となり、この100万円分が減価償却費として費用となるわけです。
つまり、損益と資金収支のバランスで見た場合、費用として計上できるのは100万円、しかし、ここで、100万円を上回る現金の支出があった場合には当然のごとく、後述する税金との関係で資金不足がおきてしまうことになります。この会社の社長さんはこの理屈を理解できなく、ただ単純に借金をあまり抱えてはいけないという考えから繰り上げ償還をしていたために資金不足が起きてしまっていた訳です。
借金を減らすことが何故いけないのかといった疑問もでてくると思いますが、会社会計という構造から、支払ったお金が全て費用と認められないため支出した現金とのギャップが生じ、資金繰りを複雑なものとしてしまうのです。
※減価償却により費用に出来る限度については、会社法改正により、償却限度額等が変わっておりますので、詳しくは、担当の税理士さんにお尋ねください。
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