第一章 キャッシュフロー経営とはどういうものか
第一節 キャッシュフロー経営とはどういうものか
「勘定あって銭足らず」という諺?があります。キャッシュフロー経営という言葉を最近良く聞きますが、実際にはどういうことなのでしょうか。学問的な話はさておき、キャッシュフロー経営とは、会社経営にありがちな誤りを犯さないように、単に損益だけの管理ではなくキャッシュの管理を伴った経営をしていかなければならない、という意味なのです。
夢を追い、時には大きな賭けに出てそれが成功し、多くの富と名声を手に入れる。あるいは市場のニーズを的確に捉えそれが時流に乗り、顧客の支持を得て大きな会社へと発展していく。これは会社を作る人間ならば誰しもが目指す事柄です。
しかし、現実はなかなか上手くいかず、悶々と企業を存続させているという事実もあるようです。そこには経営に携わる経営者の人間性といった要素もありますが、人間性も好ましく、ある程度能力もあり人の受けも良い経営者が、それなりの成功を遂げるが、いつの間にか存続の危機に襲われせっかくの事業を投げ出してしまうということがあるのです。
ある経営者が知人の紹介でやってきました。新しい事業を行いたいのでその相談に乗ってほしいというものでした。この相談にきた方というのは、実はかつて会社を作り数億円までに育てた経験の持ち主でした。残念ながらその後会社は倒産、自身も自己破産をしたそうです。
その方が自慢話のように「当時は給料を家族で年間3000万円は取っていた。車はベンツ」と話してくれました。この世の春を謳歌していたのだと感じました。
しかし、事業拡大のための借金と業績の停滞により、その日は一気にきたようです。倒産時の負債は1億8000万円。いみじくも自分たちが貰った給料と必要ではない資産の代金と同額だったようです。
そのお金はどこへ?と聞けば、不動産と無意味な投資に向けられた様子。アイディアマンで行動力もあり、それなりの実績も出せる人ですが、キャッシュフロー経営という概念がないばかりに倒産を余儀なくされたのです。
中小企業の経営者のなかには5年10年20年と経営を行ってきて、振り返ると借金だけが残っているという方も多いようです。
健全な企業は運転資金の○○ヶ月分を保有しているなどといった話も聞きますが、中小零細企業の経営者は、今月の売上は来月もあると妙な自信を持ちながら今日まで経営を行っているといったら言い過ぎでしょうか。
実はこれには後述する日本の会計形態も大きく影響しているのです。
天は二物を与えずとはよくいいますが、営業の得意な人は数字に弱く、数字の得意な人は営業に弱い。感性的に色々なアイディアを出せる人は、数字の話をすると入りや出は分かるが、税法が絡み、事が複雑になってくるとトンと理解できない人が多いようです。
起業家はどちらかというとそのような人が多いために、短期的に事業を拡大するがこけるのも早いのです。きちんとした参謀がいればそのようなことはないのですが、それほどの能力を持った人が中小企業にくることは稀で、ほとんどが手近なところで賄っているというのが実情です。なかには簿記のボの字も分からないで経理を担当している人もいるくらいです(この会社実は年商40億もあるのです)。
さて話題をキャッシュフローに戻しましょう。具体的には後述しますが、先程も触れた会計制度の違いや社会のパラダイムを数字的に読めないところから、企業経営者は多くの誤りを起こしてしまいます。
例えば、100万円を売上、利益が50万円あったとします。そこでその利益で車を購入します。残った現金がゼロだからといって税金もゼロかというと世の中そう甘くありません。この場合、後述する資産としての購入となるために全額が費用化できないのです。こんなことは中小企業の経営者であれば誰もが知っていることです。
しかし、動くお金が少ない領域で判断するのは簡単なのですが、この額が膨れ上がってくるとよく分からなくなってくるのです。実際、資産を購入する際に会社の損益をトータル的に見て、自己資金か、借り入れか、リースか、の判断をどれだけ的確にできるかとなると自信がない方も多いのではないでしょうか。
要するに今現在を基準として今後の会社のお金のたまり具合を明確にして、かつ目標とするお金のたまり具合を明確にするということなのです。
単純に利益が出ているから云々といったこれまでの経営を改め、これからは、現預金のたまりも考慮に入れた経営すなわちキャッシュフロー経営をしていただきたいのです。無論、融資側からみれば、それが明確でない企業に貸付することは、少年が「大人になったらいっぱいお金を稼いでみせるから、今お金貸して」といっているのに似て、かなりリスクの高いものになるのもお分かりでしょう。
戦後の一貫した成長策で、出た損失をインフレの手伝いもありカバーしながら中小企業は生き延びることができたわけですが、これからは確実な経営をしてほしいという社会的な要請でもあるようにも感じています。
先行的なキャッシュフロー経営を行うということは倒産しにくい企業を作ることにもなります。あるいは無理をしていらぬ借金を増やすことなく会社を早めに眠らせることも可能になります。損益による経営はもちろん大事ですが、実質のお金のたまりを見ながら経営をすることも大事なのではないでしょうか。これがキャッシュフローを中心にすえた経営です。
もちろんこれには、きちんとした経営計画が必要になってきます。
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